「ピカソになれない私たち」一色さゆり。独学で絵を描く私が読んだ感想
独学で絵を描くものから見て、とても興味深い小説でした。
出来事は日本でもトップクラスの芸大での出来事。
学生たちが才能と自分の求め進む道をもがきながら進んでゆき、挫折や嫉妬、新たなる覚醒、才能の開花。
そして大学でのパワハラともとられる教授の指導や、その周りの指導者や学生たちの各々の思い。
才能のある者、また才能を持った者への嫉妬は細かい描写が凄まじく、私自身も絵を描くものとして他人の作品を素直な目で見ることができない日々。
そのなかにミステリーを織り込んだ読み応えのある作品でした。
私事だが、絵を描いて生きている人はみんなどこそこ自分の才能を信じて、作品を作っていると思う。
その苦しんでいる最中に、まるで簡単に答えを出している人を見る。
その人がはるか遠い力の及ばないアーティストなら、すごいなーと素直に思えるのだが、こちらから見て自分と同列にいる画家が自分が苦しんで彷徨っている答えを、繰り返しになるが簡単なそぶりで解決しているのを見ると、内臓から血が出る思いの嫉妬芯がわく自分も、惨めな気がして苦しくなる。
でも周りには全くそんなそぶりを見せたくないので、いろいろな言い訳をしながら、白いキャンバスに向かい全く線が進まない。
でも「ピカソになれない私たち」を読み常にそんな感情はつきものなんだと自分なりに腑に落とすことができました。
アーティストも美術を志す人や、特別アートに興味のない人でもどんどん読める感じです。
それは作者の一色さゆりさんが東京芸大美術学部芸術学科を卒業され、その後香港中文大学院の美術研究科修士課程で学ばれます。
作品を作るにあたりご自分自身の経験や環境をもとに書かれているものは、迫力が全然違いました。
私は子供の頃から絵が好きで、紆余曲折ありやっと絵を描く仕事を数年前より始めることができました。
美大などでまったく学ぶ機会もなく、絵が好きなだけで絵を描く仕事についている自分としては、どうしても芸術系大学で学ばずにいまえの仕事をしていることに、どことなく引け目を感じていましたが、この小説を読んで自分は何者なのかを少し考えさせられる作品でした。
一色さゆりさんはほかにも数々のアート小説を書かれていて、アート界の裏側や実態をズバッと切り込んだ作品作りは素晴らしいです。
一気に読みたくなる、おすすめのアート小説。
アートに興味のない人でもぐいぐい引き込まれてゆくこと請け合いです。
washio